広島高等裁判所 昭和27年(う)394号 判決
弁護人の論旨三点、検事の論旨(何れも量刑不当)に付記録並原審の取調べた証拠に依り諸般の事情を調査して先ず被告人中本、塚迫両名の量刑に付按ずるに、同被告人等は何れも前科はなく本件窃盜を行つた動機に付ては多少同情すべき点がないでもないが、本件窃盜の目的物が海上に設置せられてあつた灯浮標の灯籠等であつて原審証人高木茂八、有本多喜男、溝口諒司等の供述に依れば、現在灯浮標は航海上危険のある浅瀬、暗礁等に設置せられてあるのみでなく、戦時中投下敷設せられた機雷の掃海を完了した区域の目標としても設置せられて居り、従つて之が機能を喪失すれば海上の交通に甚大な危険を生ぜしめるものであることが認められるところ、被告人中本、同塚迫は漁業者であるから平素から灯浮標が右の様な海上交通の安全確保の為に重要な役割を果して居るものであることを熟知して居たものというべきにも拘らず、如何なる個人的事情があつたにせよ、敢て此の灯浮標の灯籠を三個も窃取して三基の灯浮標の機能を喪失せしめ因て海上交通の安全を害したことは其の犯情甚しく悪質のものというべく其の他検事の所論を併せ考量すれば、原審が被告人中本、塚迫に対し懲役三年の実刑に処するに止めたのは、検事所論の様に量刑が不当に軽いものと認めざるを得ない。
(註。本件主文は、「原判決中被告人中本里知、同塚迫水一に関する部分を破棄する。被告人中本里知、同塚迫水一を夫々懲役五年に処する。(以下省略)」)